三佳テック事件(競業避止義務)

三佳テック事件 事件の経緯

従業員が、金属工作機械部分品の製造を行う会社を退職しました。

退職後の競業避止義務に関する特約がなかったので、その後、退職した従業員が同種の会社を設立して、元の会社の取引先(4社)から仕事を受注しました。

新会社の売上げの内、元の会社の取引先(4社)からの売上げが8割から9割を占めるようになり、その分、元の会社の売上げが減少しました。

元の会社が、このような競業行為は不法行為又は信義則上の競業避止義務違反に当たると主張して、退職者に損害賠償を請求しました。

三佳テック事件 判決の概要

従業員が、退職の挨拶をするために担当していた取引先に出向いたときに、独立後の受注を希望する発言をしていたが、仕事上の人間関係を利用する程度で、元の会社の営業秘密情報を用いたり、元の会社の信用をおとしめたり、といった不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。

また、新会社の取引先(4社)の内、3社との取引は退職して5ヶ月後に始まったものであるし、退職直後から取引が始まった1社については、元の会社が営業に消極的な面があり、競業行為によって元の会社と取引先の関係が阻害されたという形跡はない。

退職者は競業行為を行うことを元の会社に開示する義務はないから、退職者が競業行為を元の会社に告げなかったからといって、競業行為を違法と言うことはできない。退職者が、他に不正な手段を講じた事実も認められない。

以上により、本件競業行為は、自由競争の範囲を逸脱したものではないから、不法行為には当たらない。また、信義則上の競業避止義務に違反するものでもない。

三佳テック事件 解説

退職後の競業避止義務に関する特約がないまま、退職者が同種の会社を設立して、元の会社とライバル関係になったケースです。

退職者は営業を担当していた取引先との人間関係を利用する程度で、元の会社の営業秘密情報を利用したり、信用をおとしめたり、不当な手段は使っていませんでした。

自由競争の範囲内で営業活動が行われていて、競業行為によって元の会社との取引が阻害されたという形跡がないことから、不法行為には当たらない、信義則上の競業避止義務にも違反していないと判断されました。

退職した会社の営業秘密情報を不正に利用したり、不当な方法で営業活動を行っていた場合は、不法行為や競業避止義務違反に該当する可能性があるけれども、そのような行為がなければ、損害賠償は請求できないことが示されました。

退職者がライバル企業を設立して売上げが減ったというだけでは認められないということです。退職者が不当な手段を講じていたかどうか、が重要になります。

この裁判は、退職後の競業避止義務に関する特約がなかったため、退職者に幅広い裁量が認められました。退職者に競業避止義務を課したい場合は、特約を設けて、本人から個別に同意書を提出してもらうべきです。従業員に一律に適用する就業規則に記載するだけでは不十分です。

ただし、同意書を提出してもらう場合でも、次の3つの要件を全て満たしている必要があります。

  1. 制限する地域を限定する
  2. 制限する期間を限定する
  3. 代償措置を講じる

それぞれの要件には程度がありますので、地域を狭く、期間を短く限定して、十分な代償措置を講じていれば、それに応じて競業避止義務が認められやすくなります。反対に、地域が広く、期間が長く、代償措置もわずかとなっていると、認められにくくなります。

また、誰に対しても義務付けられることではありません。例えば、営業秘密情報に接する機会が多かった部長等であれば認められる可能性が高いですが、そのような機会がなかった一般社員やパートタイマー等には同意書を提出させても認められない可能性が高いです。